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アルコール依存症

[2023.11.27]

アルコールに関して悩まれる方、またはそのご家族は多くおられると思います。
当院では丁寧にお話を聞く中で患者様と一緒に解決方法を考えていきます。お薬以外の治療方法もありますし、十分な説明をした上で患者様が希望された場合にはお薬を処方することもあります。
今回は『アルコール依存症』に関してまとめてみました。
分からないことやお聞きになりたいことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
皆さまの健康へのお手伝いが出来るよう、丁寧な診察を心掛けてまいります。

◎アルコール依存症

① 概要

アルコール依存症とは、長期間にわたって大量にお酒を飲み続けることによって、次第にお酒なしではいられなくなる病気です。はじめは単なる習慣のつもりでも、お酒を飲まないと気分が晴れず、そのうち少量では酔えなくなってきます。さらにお酒が切れるとイライラする、不安になる、手が震える、夜眠れない、汗をかく、食べたものを吐くなどの症状(離脱症状)が出てきます。また、一度お酒を飲み始めるとひたすら飲み続け、食事も摂らず、飲んでは寝るを繰り返すこともあります。

② 症状・診断基準

WHO(世界保健機関)では、次のような診断基準を定めています。
過去1年間に次の6項目中、3項目以上に当てはまる場合に、アルコール依存症と診断されます。

  • 飲酒への渇望
    単なる欲求ではなく、渇望と表現されるほどの強い欲求がみられます。
  • 飲酒行動のコントロールが不能
    大事な仕事などがあり準備をする必要があるのに大量に飲酒するようになります。
  • 離脱症状
    起床時の軽い寝汗の程度から、食欲の低下や四肢の震え、激しい場合には幻覚や妄想、軽度の意識障害を伴うせん妄などが出現します。
  • 耐性の増大
    酔うために必要なお酒の量が増えていきます。
  • 飲むことが中心の生活
    飲酒以外の楽しみや興味を次第に無視するようになります。
  • 有害な使用に対する抑制の喪失
    飲酒による有害な結果が起きているのに飲酒してしまいます。健康診断で異常があっても飲み続けたり、酔い方が異常なのにやめられません。

③ スクリーニング

AUDIT (Alcohol Use Disorders Identification Test)はWHOによって開発された問題飲酒者のスクリーニングテストで、多くの国々で飲酒問題の早期発見・早期介入のツールとして使われており、日本でも20年以上前に翻訳され、医療や保健指導の現場で活用されています。
AUDITは全部で10項目の下記の設問から成り、飲酒問題の程度を評価します。

  1. アルコールをどのくらいの頻度で飲みますか?
  2. 飲酒する時は通常どのくらいの量を飲みますか?
  3. 度にビール 1500mL・日本酒3合以上の飲酒がどのくらいの頻度でありますか?
  4. 過去1年間、飲み始めると止められなかったことが、どのくらいの頻度ありましたか?
  5. 過去1年間に、普通だと行えることを飲酒したためにできなかったことがどのくらいありましたか?
  6. 過去1年間に、深酒の後体調を整えるため、朝迎え酒をしたことが、どのくらいの頻度でありましたか?
  7. 過去1年間に、飲酒後罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか?
  8. 過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいありますか?
  9. あなたの飲酒のために、あなた自身か他の誰かがけがをしたことがありますか?
  10. 家族や友人、医師、又は他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒を減らすように勧めたりしたことがありますか?

④ 薬物治療

アルコール依存症の治療薬として、わが国で承認されている薬は4種類あります。抗酒薬(ジスルフィラム・シアナミド)とアカンプロサートは断酒維持のための薬であり、ナルメフェンは飲酒量低減のための薬です。抗酒薬は飲酒後の不快反応を利用して心理的に飲酒を断念させます。アカンプロサートとナルメフェンは脳内に作用して飲酒への欲求を減らすことで効果を表すと考えられています。

抗酒薬

抗酒薬にはジスルフィラムとシアナミドがあります。抗酒薬を服用中に飲酒した場合、血中アセトアルデヒド濃度が上昇し、悪心・嘔吐、頭痛、動悸、顔面紅潮、呼吸困難などの不快な反応を引き起こします。よって抗酒薬を服用していれば、生活の中で飲酒をしたくなるような出来事があった場合にも「飲んでも気持ち悪くなるからやめよう」と考え、心理的に飲酒を断念しやすくなるという効果があります。
シアナミドの方がジスルフィラムに比べて速効性ですが、効果の持続も短いことが知られています。主な副作用としては、アレルギーによる皮疹・肝障害が起こる可能性があるため、特に服用の初期には血液検査などを行うことが望ましいとされています。また重症の肝硬変や心・呼吸器疾患が合併する場合は使用できません。

アカンプロサート

アカンプロサートは飲酒欲求を抑制することにより、断酒率を上げる効果があります。脳内のNMDA受容体を介する神経伝達を阻害することによって効果を現すのではないかと考えられており、再飲酒のリスクを低減させることが確かめられています。
アカンプロサートの効果は、断酒をしている人が服用すると断酒率が上がりますが、飲酒している人が服用してその飲酒量を少なくする効果はないと考えられています。そのため服用にはきちんと断酒をしていることが前提とされています。副作用としては、下痢・軟便が起こることがありますが、多くの場合は一過性でしばらくすると軽快することが多いです。また重症の腎障害がある場合は服用できません。相互作用は少ないため、抗酒薬との併用も可能と考えられています。

ナルメフェン

ナルメフェンは2019年3月に発売された新しい薬剤です。ナルメフェンの特徴は、飲酒している人が服用することで、飲酒量を低減させる効果があることです。アルコール依存症の治療目標は断酒が最も安全な目標ですが、新しい治療ガイドラインでは、軽度の依存症や中間的な目標として減酒の選択もあり得ると言及されています。副作用として吐き気やめまいが出現することがありますが、特に投与初期に強く現れることが多いようです。1日の飲酒量についてよく話し合い、目標以下の量を守れるように飲酒前に確実に服用することが重要です。


Babor TF, Fuente DL Jr, Saunders JB et al : AUDIT: The Alcohol Use Disorder Identification Test:Guidance for Use in Primary Health Care. WHO, 1992
Ministry of Health , Labour and Welfare
The journal of the japan medical association

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