メニュー

老年期うつ病

[2023.10.05]

ご高齢の方でやる気が出ない、気分が優れないなど抑うつ症状に悩まれる方、またそのご家族は沢山おられると思います。当院では丁寧にお話を聞く中で患者様と一緒に解決方法を考えていきます。お薬以外の治療方法もありますし、十分な説明をした上で患者様が希望された場合にはお薬を処方することもあります。
今回は『老年期うつ病』に関してまとめてみました。
分からないことやお聞きになりたいことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
皆さまの健康へのお手伝いが出来るよう、丁寧な診察を心掛けてまいります。

老年期うつ病

① 概要・疫学

老年期のうつ病は認知症と並んで有病率の高い疾患で、高齢者の約10〜15%にみられます。老年期うつ病では、その成因として遺伝的要因の関与する割合は少なく、心理社会的な要因や脳の器質的要因が多くなります。加齢による脳の器質的変化により環境や状況の変化への柔軟な対応が難しくなっている所に、喪失体験などのライフイベントがきっかけとなってうつ病を発症すると考えられています。

② 診断

老年期うつ病の診断は一般的なうつ病の診断と変わりません。

  1. 抑うつ気分(ほとんど1日中続く)
  2. 興味ないし喜びの著しい喪失(ほとんど1日中続く)
  3. 体重あるいは食欲の変化(減少ないし増加)
  4. 睡眠障害(不眠もしくは過眠)
  5. 無価値観あるいは自責感
  6. 自殺念慮(反復して起こる)あるいは自殺企図ないし明確な自殺の計画
  7. 疲労感あるいは気力の減退
  8. 思考力や集中の減退あるいは決断困難
  9. 精神運動性の焦燥(イライラ落ち着かない)もしくは抑制(動きが少ない)

1か2のどちらかは必ず含まれ、1〜9の項目のうち5項目以上が2週間以上毎日続くことが診断基準とされています。

③ 臨床的特徴

老年期うつ病と成人期うつ病はどちらも抑うつ気分と興味や喜びの消失が中核症状ですが、老年期うつ病は次いで希死念慮が多いことに対して、成人期うつ病では食欲低下や易疲労感が多いとされています。また、老年期うつ病では焦燥や消化器系の身体症状を訴えることが多く、強い罪責感や罪業妄想を伴う場合には自殺のリスクが高いことが示されています。

④ 鑑別

鑑別すべき疾患として認知症、アパシー、せん妄、双極性障害、身体疾患による抑うつ状態などが挙げられます。
特に抑うつ状態とアパシーは臨床症状が類似していますが、対応が異なりますので注意が必要です。抑うつ状態では興味や喜びの喪失を認めますが自己の不調に対する興味は過剰となるのに対して、アパシーではあらゆる事に対して無関心となります。また、抑うつ状態では行動するモチベーションは保たれ活動性低下に対して苦痛を伴うことに対して、アパシーでは行動するモチベーションは欠如し活動性低下に対して苦痛を伴いません。

⑤ 治療

基礎的介入

患者さんや家族に対して心理教育や環境調整を行い、身体的状態に注意しながら治療計画を立てます。喪失体験などを背景とした心の状態に対して受容的、共感的な態度で接することが大切です。

薬物療法

抗うつ薬の服用が基本となります。
抗うつ薬には三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがありますが、三環系抗うつ薬は抗コリン作用・抗ヒスタミン作用などの副作用があり、SSRIやSNRIが選択されることが多いです。
抗うつ薬の用量としては、まずは通常の半分程度から開始し、低用量での効果を見ながら有害事象に注意して増量を図っていきます。また、増強療法としてアリピプラゾールや炭酸リチウムが有効とされており、血液検査にて血中濃度を図りながら調整していきます。

精神療法

一般的な精神療法に加えて、認知行動療法、問題解決療法、回想療法、ライフレビュー療法、行動活性化療法が抑うつ症状の改善に有効とされています。ただし、一般的に精神療法は軽症から中等症で行われることが多く、重症患者さんでは精神療法が心理的負担にならないよう注意が必要です。

日本うつ病学会治療ガイドライン
高齢者のうつ病治療ガイドライン
The journal of the japan medical association

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME