注意欠如・多動症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)
多動や不注意に悩まれる方、またそのご家族は沢山おられると思います。当院では丁寧にお話を聞く中で患者様と一緒に解決方法を考えていきます。お薬以外の治療方法もありますし、十分な説明をした上で患者様が希望された場合にはお薬を処方することもあります。
今回は『ADHD』に関してまとめてみました。
分からないことやお聞きになりたいことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
皆さまの健康へのお手伝いが出来るよう、丁寧な診察を心掛けてまいります。
◎注意欠如・多動症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)
① 概要・疫学
12歳以前から学校、家庭、職場などの複数の場面で、発達水準に不相応な不注意、多動性・衝動性のいずれか、または両方が認められ、そのために日常生活に支障をきたす神経発達障害です。
診断される子どもの割合は学童期の子どもの3〜7%であり、男子の方が女子より3~5倍多いとされています。成人でも診断に該当する人の割合は2.5%ですが、男女比は1:1に近づきます。
② 症状
子どもや成人の症状として以下のようなものが認められます。
◇子どもの多動性・衝動性
落ち着きがない、大人しく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、座っていても手足をもじもじする、順番を待つことが難しい、他人の会話や遊びに割り込む
◇子どもの不注意
忘れ物が多い、物をよくなくす、学校の勉強でミスが多い、課題や遊びなどに集中することが難しい、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までしない、作業の段取りが苦手、気が散りやすい
◇成人の不注意
そわそわして落ち着かない、運転時にスピードを出しすぎる、事故が多い、計画的に物事を進められない、他のことを考えてしまう、電話の折り返しを忘れる、感情のコントロールが難しい、転職を繰り返す
③ 診断
ADHDの診断には、家庭、学校、職場などの複数の場面における不注意、多動性・衝動性が認められることを確認する必要があることから、患者さんの言葉だけでなく家族や先生、同僚からの情報も大切になります。また、12歳以前から症状が認められることを確認するためには、通知表や学校との通信などの情報も重要となります。現実にはこれらの情報を入手できない状況もあり、診断には慎重な判断を要します。
◇ADHDの診断基準
- 「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
- 症状のいくつかが12歳以前より認められること
- 2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと
④ 治療
◇環境調整
子どもの環境を暮らしやすいものにするための介入としては、勉強机や教室の机の位置や掲示物などを工夫して気が散りやすいものを見えなくし、本人が少しでも集中しやすくなる方法を考えます。また、勉強や作業を10~15分など集中できそうな最小単位の時間に区切って、休憩のタイミングを予め決めておくなどの時間的介入も有効です。指示は簡潔で分かりやすい言葉で伝え、褒める際も明確で分かりやすくすると良いです。
◇心理教育
行動への介入では、子どもの行動のうち、好ましい行動に報酬を与え、減らしたい行動に対しては過剰な叱責をやめて報酬を与えないことで、好ましい行動を増やそうという試みを行います。問題行動を抑制できたことやその頻度が減ることなどにも注目してしっかりと即座に褒めてあげることが重要です。報酬を得点化して一定数になったら何らかの特別なご褒美・行事への参加(映画に行く・博物館に行くなど)につなげるようにします。この行動変容に関して、主として子どもに関わる保護者が学ぶトレーニングが「ペアレントトレーニング」として知られています。
環境調整や行動への介入を行っても日常生活における困難が持続する場合には薬物療法を検討します。薬物療法に関しては次回ブログにて詳しく説明します。
American Psychiatric Association
e-health net Attention-deficit hyperactivity disorder
National Center of Neurology and Psychiatry
The journal of the japan medical association